出演者のすべてが仮面を着けて踊る舞踊劇。有名なバリ舞踊家のジマット氏によって編成されたプログラムです。
こんにちは!バリ島ナビです。
派手なメイクにキラキラした衣装で踊る。という雰囲気が定着しているバリ舞踊ですが、これら観客の目をひく派手なものだけがバリ芸能ではありません。バリ島には仮面を使った舞踊もたくさんあり、宗教的な儀式の場では仮面を着けて舞う「トペン」といわれる舞踊が必ずといってよいほど奉納されています。アルマ美術館では有名舞踊家イ・マデ・ジマット氏を中心にプログラムを組んで、難しい仮面舞踊劇をわかりやすく公演しています。
イ・マデ・ジマット氏は、1948年バトゥアン村生まれの舞踊家で、バリ島内でも名前を知られた古典舞踊のマエストロです。何度も海外へ招聘されて公演を行っていて、世界各国に根強いファンを持っています。一度観たらその名前を忘れられないくらいに感動を起こさせる舞踊を踊る、数少ない本物のスニマン(芸術家)です。
会場はアルマ美術館。この日は夕方から雨であったため、オープン・ステージが濡れて使用できず、入り口付近の展示場が舞台となっていました。雨の場合は南ゲートが近いのでそちらへ向かいます。入ってすぐの所には今夜の舞台で使われるのであろう「バロン・ランドゥン」が飾られています。絵画のかかった展示場に所狭しと運び込まれたガムランで、思ったよりも狭い会場です。このため、客席は舞台ギリギリに椅子が置かれていて、至近距離で踊りが鑑賞できます。
公演プログラム 「カン・チン・ウィ物語」
バリ島に伝わる昔話の「カン・チン・ウィ物語」をジマット氏が新たに演出したプログラムが演じられます。観光客向けに宗教色が強く出ないようアレンジしてあるそうです。
オープニングの曲
プログラムには書かれていませんが、最初に短い楽曲が演じられました。ルランバタンといって寺院で奉納される曲で、名前は知らないけれども時々耳にする曲。ナビの同行者(音楽専門)によると、タブー・ルランバタン・スマランダナというクラッシックな曲ということで、その中のプンガワと呼ばれる一部分だけが演奏されていたそうです。
舞踊 トペン・トゥア
老人の仮面をつけた踊り手による舞踊です。写真では判らないと思いますが、なんと、踊り手は女性の方でした。確かに女性っぽい動きの踊りだったのですが、お爺さんなので柔らかい動きを上手に表現しているとばかり思っていました。面白いことに後ろで見ていたバリ人のガイドさんまで「背の高さと仮面とのバランスや、動きの雰囲気がトペン・トゥアにはぴったりだ。中は誰だ?」って話をしていたので、びっくりです。ナビは、帰宅後に記事用の写真をチェックしていて、衣装と指輪で、会場に到着したときに挨拶を交わした女性の踊り手さんだとわかりました。驚くとともに、お爺さんと思い込ませるくらいに役作りが上手だったのだわ、と感心しなおしました。
続いて、お笑い役の登場です。目と鼻だけの仮面をつけたこの二人は使用人だそうです。物語の進行役として解説を行いながら踊り演じていきます。
使用人が簡単な踊りを終えると、彼らの主人「ジャヤ・パングス王」が登場します。バリの仮面舞踊では「アルサ・ウィジャヤ」としてお馴染みの王や貴族をあらわす仮面をつけた踊り手が登場し、上品に踊ります。
王様、近すぎ(右横の影は観客の頭)
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ただいま修理中
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展示場に設置された舞台は段差がなく、踊り手は観客の目の前で踊ります。踊り手の方でもお客さんに近い感じを受けるのか、さきほどのトペン・トゥアはお客さん一人一人に握手して回ってくれました。このとき、王様も客席にサービスしようと前に出すぎたのか、照明用の電気コードをふんづけてしまいました。会場の照明がパーン!と半分消え、演奏をしていたおじさんが、慌てて電気コードを直しに来たのですが、雨のしずくで濡れていそうな差し込み口と、接触不良を起こしているケーブルとをガツンガツン曲げたり引っ張ったりするので、感電するのではないか?と見ていてヒヤヒヤしました。おじさん奏者の努力もむなしく、結局後半は暗い舞台になってしまいました。仮面を着けているので、慌てるおじさん奏者の様子は見えていないらしく、王様は相変わらず上品に踊っていて、そのギャップがおもしろかったです・・・
三人がひとしきり踊ると、激しい音楽が始まり、首相が現れます。ここでジマット氏の登場です。踊りは暴力的なキャラクターの「トペン・クラス」の仮面であるとプログラムに書かれていましたが、優しい感じのする仮面でした。王様は外の世界に散策に行くことにし、ジマット氏演じる首相は、王様が留守の間の王立法廷での特権を授与されます。
王様と首相が退場すると、村人役の踊り手が登場し、それぞれの仮面が持つキャラクターを踊りで表現します。ここからは、王様が訪れた外の世界の様子が踊られているようです。まずは笑いを取るキャラクターが2つ。
ジマット氏が仮面を替えて登場します。村の老人のようです。使用人との絡みの会話が進みます。
ここで明るい音楽に切り替わって、女性のキャラクターが初めて登場します。といっても、中味は男性なのですが。村娘の役であるらしい踊り手は、扇子をふって踊りながらお客さんを上手に舞台上に誘って一緒に踊り、楽しい雰囲気で公演が進みます。
賑やかな踊りが終わったら、ジマット氏が仮面を替えて登場します。今度はお笑いの役のようです。
外の世界の散策に出たジャヤ・パングス王はカン・チン・ウィと知り合い、愛し合います。しかし王様の正妻である「デウィ・ダヌ」に見つかります。プログラムには二人の滑稽な女中が登場して、王様の奪い合いをし、これがやがて決闘戦になる。と書かれていたので、登場してきた面白い顔の仮面の女性のことを滑稽な女中かと思っていたら、なんと「正妻デウィ・ダヌ」でした。カン・チン・ウィの美しい仮面と正妻の仮面のキャラクターが、えらく違うのですが・・・女中の役は、ここでは先ほどの村人が演じているようです。
音楽が変わって、別の役が登場します。演奏されている音楽も仮面もバリの儀式ではお馴染みの「シダ・カルヤ」なのですが、ジマット風にアレンジされて、正妻デウィ・ダヌの母「ブタリ・バトゥール」として踊られます。王様とカン・チン・ウィの仲に憤慨したブタリ・バトゥールは、彼女の持つ魔力によって、二人を巨大な「バロン・ランドゥン」へと変えてしまいます。
刑罰として、バロン・ランドゥンは村と村人を保護するように命じられ、ジャヤ・パングス王とカン・チン・ウィは、神聖な人形バロン・ランドゥンとして偶拝されます。
最後はバロン・ランドゥンが舞台に置かれて、記念撮影をとることができます。
さて、公演の前のことですが、チケットを買っていると、脇からナビを呼ぶ声が・・・ジマット氏でした。なんとチケット売り場の脇、つまり舞台となる展示場の横で踊り手が着替えていたのです。いやいや踊り手の準備姿が見られるなんて、まるでバリのオダランに来たかのようなシチュエーション。舞台の方も舞踊劇ということで、延々と仮面が出て来るので、オダランか儀式の奉納舞踊をみているような気分になります。
笑いを取るシーンでは、英語や日本語らしき単語を使ってくれるシーンもありましたが、物語は主にバリ語や古代カウィ語を使って進められます。ゼスチャーや台詞の調子で笑わせたい部分は何となくわかるのですが、会場でもらうプログラムを片手に握って観ていないと、話の流れをつかむのが少々むつかしいので、開始前に目を通しておくことをオススメいたします。
ところで、以前ナビが取材したアルマ美術館の「プリアタン・マスターズ」の記事をご覧いただいたことがあるでしょうか?写真を見るとわかりますが、「トペン・ジマット」で音楽を担当する楽団の大半の演奏者は「プリアタン・マスターズ」と兼任なのです。往年のミュージシャンが週一度集まって演奏どころか週に二回も公演をこなしていたのですね。メンバーには他の曜日にも別の楽団で演奏や踊りで参加している方もおられます。素晴らしい体力であると共に、バリ人って本当に芸能を愛しているんだなぁ。と感心させられます。
以上、バリ島ナビでした。