一度聴いたら病みつきになること間違いなし。ウブドに居ながらあのジェゴグを体験できる!一見の価値あり!
こんにちは、バリ島ナビです。今日ご紹介するのはジェゴグという竹でできたガムランオーケストラ。本来はバリ島西部のジュンブラナ県ヌガラ地方でのみ行われる水牛レース(ムカプン)の際に演奏されていた竹製打楽器のアンサンブル。また一説によると、Pencak Silatというインドネシア各地に伝わる武術や、Tari Cabangという武器を手にして二人組で舞う踊りの伴奏だったそう。タイのムエタイでも格闘の前に舞いを舞うのが有名ですが、そのようなものでしょうか。ともかくも現在では「スアール・アグン」のジェゴググループが特に日本では有名です。
ジェゴグは、大小、大きさの異なる14台の竹の打楽器(巨大な木琴のような形状)によって構成されるアンサンブルで、最大のものでは竹筒の直径が20~30cm、長さが2.5m以上にもなります。この一番大きい楽器の名前がジェゴグで、他の大きさの異なる楽器にもそれぞれ名前がついていますが、今ではこのアンサンブル全体をジェゴグと呼ぶようになっています。バリの音楽は通常5音階ですが、ジェゴグは特殊な4音階です。しかし、高音から重低音まで5オクターブもの音を出し、14台が奏でる複雑でうねるような音は、一度聴いたら忘れられない深みのある音で、耳で聴く、というよりも身体で体感する、といった方が相応しい、圧倒的なものです。
ジェゴグは、巨大竹の故郷であるヌガラ地方のスウェントラ氏率いる「スアール・アグン」によって一躍有名になりました。多くの日本人観光客もその音色の虜になりました。しかし、その演奏を聴くためには、はるばるヌガラまで行くか、ジェゴグの楽団ごとチャーターするしかなかったのです。
また、ヌガラから遠く離れたウブドのバリ人たちも、ジェゴグに興味を持っていました。西暦が2000年代に変わって間もなく、そんなウブドの若者たちの自分たちでジェゴグを演奏してみたい、という希望が結晶して、2002年に「ヨワナ・スワラ・ウブド」が誕生。ヌガラの「Niti Swara二ティ・スワラ」というジェゴググループの協力を得て、楽器の調達、演奏の練習、楽曲の習得に励み、届いた楽器に自分たちで装飾を施し色を塗る所から、活動が始まったそうです。
新しく楽団が結成される際、その「楽器」と「楽団員」の結婚式が執り行われます。これは人間同士の結婚式と同じ準備と手順を踏んで、お坊さんによって執り行われる儀式なのですが、この「ヨワナ・スワラ・ウブド」も「一生を添い遂げる」固い決意のもと、メンバー、踊り手、そして楽器の結婚式が盛大に執り行われたそうですよ。そして2002年のPKB(ぺスタ・クスニアン・バリ~バリ島芸術祭~)への出演で華々しいデビューを飾ります。以降、毎週水曜日におひざ元のダラム・ウブド寺院で定期公演を行っています。
メンバーはウブド出身者で構成されていて、皆、普段も王宮の楽団などでガムラン奏者として活躍している若手の男性たち。「ヨワナ・スワラ」とは「若さあふれるエネルギッシュな音、声」という意味だそうですが、デビューから8年、当時の若者たちも今では立派な壮年に。円熟味を増した演奏で、より一層深みのある音を聞かせてくれます。
ジェゴグとともに舞う踊り手はウブドで活躍する踊り手を選抜、添えものではない素晴らしい踊りを披露してくれます。「ヨワナ・スワラ・ウブド」では若手の舞踊家の育成にも力を入れていて、演奏者の中にもまだ幼さの残るメンバーがいたり、子供たちにも不定期ですが踊りを教えるなど、後に続く活動に意欲的に取り組んでいるそうです。
さて、メンバーは演奏者、踊り手を含めた総勢で50人~60人。水曜日の定期公演では2002年当時からのプログラムで充実した公演を行っています。水曜の夜はウブドのかなり離れた場所でも風に乗ってジェゴグの音色が聞こえてくるようになりました。その独特の音色は何度聞いても飽きず、また聴くだけでなく眼で見、身体で体験してみたい、と思わせるユニークな響きを持っています。
今日はその公演をご紹介しましょう。
公演開始前
ウブドの王宮からは歩いて一本道で、メイン・ストリート沿いにあるダラム・ウブド寺院が公演会場なので、夕食後、散歩がてらに歩いて行くのにちょうどいいロケーション。公演開始の1時間ほど前からチケット販売が始まっているようです。
夕闇せまる時間帯、ちょうど街灯が灯り始める頃、寺院の入口から奥に続く参道がなんとも幻想的。この寺院の屋外スペースでは違う曜日にケチャの公演も行われています。
ジェゴグの会場となるのは屋根付きの半屋内スペースで、広々とした舞台と客席です。舞台の横、階下に「トイレ」の表示が。普通、お寺の公衆トイレはあまり衛生的でなく、観光客の皆様にはかなり抵抗があるような代物が多いのですが、ここのおトイレは、中々きれいでした。ここなら、我慢せずに行けますね。会場の後方には飲み物の売り子もいるので、のどが渇いても外まで出ていく必要無しです。
舞台は一段高くなっていますが、客席から近い距離で演奏、舞踊が観れそうです。
さて、灯油が灯る中、いよいよ演奏開始です。
プログラム
トゥルントゥンガン(楽曲)
初めの演奏は、奏者が会場に入ってきて、それぞれのポジションにつくと、おもむろに始まりました。しかし、お腹への音の響き方が違う!銅製、金属製のガムランはびくっ!と身体がすくむような衝撃がありますが、ジェゴグの音はその音が自分の身体と共振しているような感じ。私たち人間の身体もまた一本の管なのだということを改めて体感する感じです。多分に大音響なのですが、身体に心地よい響きで、思わず身体がリズムをとってしまいます。この楽曲はバリの村で村人たちを集めるために慣らされる「クルクル」の音を表した曲です。
タブ・タマン・バリ(楽曲)
先ほどの楽曲よりもさらにダイナミックで複雑な旋律の曲。奏者が身体全体を使って演奏しているのがよく見えます。ジェゴグの楽しみは、音を体感するのもそうですが、奏者の演奏を眼で見るのも、大きな楽しみの一つです。あの巨大な楽器を、どうやって響かせるのか?そして、また奏者の楽しそうなこと!ナビもジェゴグが大好きで、日本でも公演があると足を運び、バリでも機会があれば必ず見ていますが、自分の身体よりはるかに大きい楽器を演奏してのける奏者は本当にすごいと思います。まさに全身運動で、さらにほかのメンバーとの見事なアンサンブル。こんなの演奏できたら、そりゃあ楽しいでしょうねえ!
ペンデット・ダンス
ガムランの定期公演でもおなじみの、ウェルカム・ダンス。本来は寺院の儀礼の際、神々の降臨を祝して踊られます。美しく着飾った若い娘の踊り子たちによって踊られます。伴奏がいつも聴いているガムランと違い、最初はまったく別の踊りかと錯覚してしまいますが、柔らかな動きはそのままに、ややテンポアップした歯切れのよい踊りでした。演奏はここからは本来ジェゴグにはない、クンダンやチェンチェンや笛などが加わります。
ちなみに、もともとのガムランの曲をジェゴグ用にアレンジした場合、やはり最初は音が取りづらく、踊り手も戸惑うようです。しかしそこはウブドのプロダンサーたち、何回かの音合わせで全く違和感なく踊りこなすそうです。凄いですね。
バリス・ダンス
これもバリ舞踊の定期公演ではお馴染みの演目のひとつ。若い戦士の踊りで、上手い子は小学校高学年くらいから舞台に出る、バリの男の子憧れの踊り。今日の踊り手は中学生か高校生くらいの男の子でした。ややジェゴグの音の迫力に押されぎみでしたが、なかなかこなれた踊りで、ポイントを押さえた、いいバリスでした。
ムカプン・ダンス
次はいよいよ、お待ちかねのムカプン・ダンス。ムカプン、とは水牛レースのことで、ジュンブラナ県では毎年8月の独立記念日前に、県を東西二つのブロックに分けてブロック予選が行われ、9月から10月には各ブロック予選を通過した水牛による決勝戦が行われる、非常に勇壮なレースです。2頭の水牛が御者を乗せた車を引くもので、このダンスは御者と水牛たちのかけ合いを表したユニークなダンスです。ジェゴグの公演用に純粋にジェゴグの曲とともに作られたダンスで、見ていても非常に楽しいです。
ナビは何回かこのヨワナ・スワラの公演を観ていますが、このムカプン・ダンスが一番好き・・・と、あれ!?今日はなんだかダンサーの数が少ないぞ!?途中までは踊り手の上手さに目が行っていたので気がつかず、人数が違うので別の踊りか、と思って見ていたのですが、水牛役の女性が3人、御者の男性が1人、という構成でした。あとで代表の方に伺ったところ、8月現在ウブドではあちこちでオダラン(寺院の創立祭)が行われていて、多数の踊り手たちがその奉納舞踊に回っているとのこと。数々の宗教儀式の優先度が高いバリ島ならではのそんな事情が影響しているのですね。
しかし、最初に登場した3人の水牛役の女性たちが息ぴったりの素晴らしい踊りで魅せてくれ、御者役で登場した格好のいい男性ダンサーの踊りに見とれていると、人数のことなんかすっかりどうでもよくなりました。この踊りで登場した4人のダンサーは成人した踊り手でしたが、非常に踊りの完成度が高く、素晴らしかったです。
タブ・チャンガレモダン(楽曲)
バリの白サギを表したジェゴグのみの演奏。
ブリビス・ダンス
アヒルが舞い飛ぶ様を表した踊り。白い衣装と冠をかぶった踊り手が、文字通りひらひらと舞い踊ります。水鳥のユーモラスな動きも入り、ジェゴグ奏者もますます演奏に熱が入ってきます。
ゴパラ・ダンス
バリの男の子が最初のころに習うバリ舞踊のひとつ。ただし、子供がよく踊るとはいえ難易度は高く、非常にコミカルな要素の多い踊りなので、観客うけのいい踊りです。田んぼで働く農夫の動きをコミカルに表した踊りで、本来は4人~5人で踊りますが、今日は前述の理由によりダンサーが揃わず、先ほどのバリスを踊ったダンサーが衣装を早替えして再度登場。先ほどのバリスとは打って変わった愉快な踊りで楽しませてくれました。
タブ・ガリ(閉演の楽曲)
これで公演は幕を閉じます。
公演終了後に、観客に思う存分楽器を触らせてくれます。これは嬉しい試みですよね!
左端が代表のアグン・メンダ氏
「ヨワナ・スワラ・ウブド」代表のアグン・メンダ氏にお話を伺ったところ、長くあこがれ続けたジェゴグを現在ウブドで定期的に公演できることに非常に喜びを感じている、とのことで、元来はもちろん、ヌガラ地方のものであったジェゴグを是非このウブドにも根付かせたい、という熱意が伝わってきました。現在はヌガラ地方の楽曲を演奏しているそうですが、後々は「ヨワナ・スワラ・ウブド」のオリジナルの楽曲を作って演奏していきたいとのことで、その際は、ギャ二アール・スタイルのジェゴグの曲が初誕生することになりそうです。
また、当初から「ヨワナ・スワラ・ウブド」の活動に協力している本場ヌガラ地方のジェゴグ・グループ、「二ティ・スワラ」とのムバルン(ふた組のジェゴグによるまったく異なる演奏の格闘技!)を年に1度か2度、ウブドで開催しているという情報も教えていただきました。ムバルンとは、ふたつのジェゴグが片方の演奏途中から、もう片方がまったく別の演奏をはじめ、まるでお互いがお互いの演奏を打ちこわすかのような、まさにジェゴグ同士の格闘のようなものなのですが、途中から不思議な共鳴を起こし、あたりの空気を巻き込み、奏者も聴衆もその混沌とした場に取り込まれ、一種のトランス状態のような空気を醸し出します。ナビも何回かムバルンを体験したことがありますが、いずれもヌガラであったり、日本であったり。もし、ウブドでそれが体験できるのならば、絶対に参加したい!
本当は定期公演でムバルンが出来たら最高なのですが、とアグン・メンダ氏。しかし、ムバルンを行うにはもうひとつのジェゴググループをはるばる呼び寄せねばならず、費用の面や現実的に楽器の輸送の問題でなかなか実現が難しいとのこと。ただ、年末の年越しや「ヨワナ・スワラ・ウブド」の誕生日(設立記念日)の際に、二ティ・スワラとのムバルンがこの定期公演で見られるとのこと。その時には大々的にインフォメーション、別チケットの売り出しを行うそうなので、要チェックです!
このように、熱い意欲を持って、ジェゴグに取り組んでいる若いエネルギーがウブドにもあるのだ、ということを再発見したナビ。さすがに芸能の中心地、ウブドで活躍中の芸能集団メンバーだけあって、踊りのクオリティの高さを常に高く保とう、という意識の高さも、非常に感じました。今後とも、注目していきたいグループです。以上、バリ島ナビでした。