ウブド王宮で月曜日に行われる「レゴン・ダンス」の公演。一番人気と評判が高く、ウブドに来たら必見のダンス公演です。
こんにちは、バリ島ナビです。今日ご紹介するウブドのバリ舞踊定期公演は、月曜日のウブド王宮、「サダ・ブダヤ」のレゴン・ダンスです。ウブド王宮では毎日、日替わりで4つのグループがバリ舞踊の定期公演を行っています。その中でもサダ・ブダヤは、最も歴史のあるグループ。1970年代にガムラン・フェスティバルに参加するために結成されたスク・ゴン(ガムラン・チーム)だそう。日本やヨーロッパに遠征公演を行うほどの実力のあるグループで、ガムラン奏者も踊り手も、数多く、王宮お抱え楽団「トゥドゥン・アグン」に参加しています。「サダ・ブダヤ」のサダとは6つの、という意味だそうで、文字通り、ウブド・カジョー、ウブド・クロッド、サンバハン、サクティ、ブントゥユン、タマンの、6つのバンジャール(集落)出身のガムラン奏者、踊り手から成っています。創立が今から30年以上前ということもあり、当時からのメンバーのガムラン奏者はもう初老。その子供達が若手として代替わりして加わっていることもありますが、全体的に熟年ガムラン奏者が多く、円熟味のある音を聴かせてくれると評判です。プログラムはオーソドックスに古典舞踊と、比較的新しい創作舞踊の名作がほど良く組み込まれ、バリ舞踊に興味のある人にはまさに適切な内容となっています。それでは、その公演の内容を詳しくお伝えしていきましょう!
開演前
月曜日の「サダ・ブダヤ」は人気があり、一番観客の数が多いので、席に座れないことも多い、と聞いていたのですが、ハイシーズンも過ぎたことだし、この日はあいにくの大雨!で、そんなにお客さんも多くないだろう、と開演時間の夜7時半ぴったりに会場入りしたナビ。雨の日はウブド王宮の前庭ではなく、王宮の向かい側にある屋根付きのワンティラン(集会場)が会場になります。外から無料で立ち見できないよう、集会場の周りにはぐるりと暗幕が張り巡らされ、入口のわずかなスペースだけが開いているので、初めて会場に行く人でもすぐに分かります。
会場には時間通りに入りましたが、半分ほどの入り。雨だし、今日はこんな感じかな、と思っていましたが、その雨でガムラン・チームも揃わないようで、開演時間になっても始まりません。先に来ているじいちゃんガムラン奏者が後ろの方で椅子に座ってのんびり雑談。お年寄りが時間より早くきっちり到着するのは、どこの国でも一緒なのでしょうか。チームの制服をびっしょり濡らして、次々に他のガムラン奏者も到着です。
そうこうしているうちに、お客さんがどんどん入ってきて、しまいには一番後ろの席まで満席状態に。さすがに人気が高いのですね!このワンティラン(集会場)は、ウブド村(いくつかのバンジャールから成る)共用の集会場で、王宮の隣りということもあり、広くて立派な作りです。踊りの公演や、様々な催し物に使われるので、おトイレなどの設備も比較的きれいです。ジュースやビールなどを売り歩く、売り子のおばちゃんも、せっせと商売に励んでいます。見ていると結構ビールや虫よけなどが売れています。
さて、いよいよ舞台がパァーッと明るくライトアップされて、イストリ・マンクー(お坊さんの奥さん)によるお清めも済み、公演の始まりです!
ガボール
公演の幕を落とすのはウェルカム・ダンスの「ガボール」。このウェルカム・ダンス、通称「花撒きダンス」にはいくつもの種類があるのですが、その中で「ガボール」をやるのはウブド王宮の公演の中で月曜のサダ・ブダヤだけ。普通、少女たちが一番最初に習う「花撒きダンス」よりやや難しくハードなためか、サダ・ブダヤでは妙齢の女性たちによって踊られます。少女たちの拙いウェルカム・ダンスはそれはそれで可愛らしくていいのですが、サダ・ブダヤのウェルカム・ダンスは大人の女性のウェルカム・ダンス、といった趣で、一糸乱れぬ動きが見ていても気持ちがよいです。本格的、という感じで、今後のダンスにも期待が膨らみます。
バリス
「バリス」は戦士の踊りと言われ、戦場での戦士の勇ましさや恐れ、憂い、激しさといった感情を表現しています。途中でさまざまに変わる表情、常に腕を肩の高さに保ったままの戦闘態勢での激しい動作、といったところが見どころで、とくに踊り手が激しく眼球を動かす場面には、こちらの目も釘づけになってしまう迫力。
バリ舞踊の公演と言えば、必ず演目に組み込まれ、またバリ舞踊を志す者は必ず取り組む演目ですが、それだけに、これを見れば、その踊り手の力量が一目瞭然となる、難しい踊りなのです。この日のバリスの踊り手はイダ・バグース君。高校生だそう。登場の段階から手の先・足の先まで力が漲り、見開いた眼には張り詰めた光が。なかなか見応えのある踊りを披露してくれ、なんだかすごーく得をした気分になったナビ。
数あるバリ舞踊公演ですが、公演料金が軒並みどこも高くなっていて、そんなに頻繁には見れない昨今のバリ舞踊事情。どうせなら上手い、すごい踊りを見たいですよね。この日の「バリス」は若い踊り手でしたが、見せ場をよく分かっていて、十分に魅せてくれました。神がかり的な眼の動きは、ちょっと鳥肌もの。ちなみに「バリス」は、本当は中学生くらいの少年が踊るのが一番いいんだよなぁ、とベテランのバリ舞踊家の男性がおっしゃっていました。でも高校生でも、成人男性でも、「バリス」は男性的な魅力あふれる素晴らしい演目だと思ったナビ。
レゴン・ダンス
さて、お次はこの月曜日「サダ・ブダヤ」のプログラムのタイトルにもなっている、「レゴン・ダンス」。「レゴン・ダンス」はかつての宮廷舞踊がその原型だそうですが、「レゴン」と呼ばれる女性の踊り手によって、物語が踊りで演じられていく、というスタイルの舞踊のことです。この月曜の「レゴン」は、「レゴン・ラッサム」と言われる、ラッサム王の物語です。
まず、チョンドンというピンクの衣装を着た「宮廷女官」が登場し、さまざまな宮廷舞踊の所作を次々と繰り広げていきます。この「チョンドン」の踊りが女性のバリ舞踊の全ての動きを集約したものともいわれ、バリ舞踊を志す少女たちが最初の方に必ず練習する演目です。基礎中の基礎、と言ってもいい踊りなのですが、実にめまぐるしく、速いスピードでさまざまな動きが入っていきます。体力が必要な踊りなので、若い子でないとキツイのじゃないか、と思ってしまいます。「チョンドン」は一番最初の登場で、1人で観客の目を惹きつけるので、きびきびとした、テンポの良い動きが要求されます。
実はナビ、この「サダ・ブダヤ」の公演は、10年以上前から見続けていて、自称「サダ・ブダヤ」ウォッチャーなのですが、以前はこの「レゴン・ダンス」は若い子3人組でした。彼女たちが小学生から中学生、そして高校生になり、あの初々しかった子供たちも上達してキレイな女性になったなーと思っていたら、いつの間にか3人とも結婚して子供もいて、すっかりいいご婦人に。現在ではレゴンではなく、他の踊りにまわっています。
現在の「レゴン」は、ベテラン3人組が踊っています。ウブドを代表する女性の舞踊家たちで、現在では後進の指導に献身している彼女達の「レゴン」は、やはりこの公演の真うち、と言えるのではないでしょうか。小柄で、一見すごく若く見える、きびきびした動きの「チョンドン」はカデ・ソカさんという、30代の女性。「チョンドン」のお手本、ともいえる正確かつ可憐な踊りで、最初から観客の目を釘付けに。
途中から、緑色の衣装を着た「レゴン」2人が登場し、しばし「チョンドン」とともに宮廷舞踊の所作を繰り返します。
「チョンドン」が「レゴン」にキパス(扇)を手渡して去ってからが、いよいよ「ラッサム王の物語」の始まりです。そう、実は前半部分は物語ではないのです。
ここから2人の「レゴン」は、「ラッサム王」と「ランケサリ姫」の2役に分かれ、物語を繰り広げていきます。ラッサム王を踊るのは、アナッ・アグン・オカさん。そしてランケサリ姫を踊るのはアナッ・アグン・ラカさんで、オカさんのお姉さんです。この二人が息ぴったりで、見た目も揃っているのは姉妹だから。レゴンはなるべく身長・雰囲気・顔立ち・技量が同じレベルのもの同士で踊られますので、まさに理想的なペアですよね。オカさんもラカさんも、ウブドのさまざまな楽団で踊るベテランのダンサーで、ラカさんは長く「タルナ・ジャヤ」を踊っていて、実力・人気ともに揃ったダンサーです。
ランケサリ姫のアグン・ラカさん
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ラッサム王のアグン・オカさん
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物語は、婚約者のいるランケサリ姫を無理やりさらってきたラッサム王が、姫に求婚するところから始まります。悲しみに暮れるランケサリ姫に何度も言いよるラッサム王ですが、ランケサリ姫に激しく拒絶されます。
怒って退場してしまったランケサリ姫の後、ラッサム王は隣国への戦いへと赴きます。途中で神鳥ガルーダがラッサム王の行く手を遮り、不吉な予言を行います。負け戦と知りつつ、戦場に向かうラッサム王・・・。
二人のレゴンは優雅ながらも力強い踊りで、見る者をぐんぐん惹きつけていきます。ランケサリ姫は悲しみを強く表現し、ラッサム王は強引ながらも、勇猛な王として戦いに臨んで行く、王としての複雑な感情も垣間見せます。ランケサリ姫が退場した後、先ほどのチョンドンが、今度はガルーダとして登場します。先ほどにもまして激しい動きが多いです。くるくる旋回したり、しゃがんだまま飛び跳ねたり、そして、何度もラッサム王に挑んでいくその様子は、鳥の動きも取り混ぜながらの、複雑な動きが見どころ。このカデ・ソカさんは、年齢的にはすでに中年ですが、小柄できびきびとした身のこなし、まさにチョンドンにぴったりの踊り手だと思いました。
公演ではダイジェスト版として通常15分ほどに収められますが、本来の「レゴン・ラッサム完全版」では、30分以上の長さになります。
タルナ・ジャヤ
「タルナ・ジャヤ」は男装した女性によって踊られる、若い勝者の踊り。創作舞踊の中でも人気が高く、まさに1人舞台であるため、踊り手からも人気が高い演目といえるでしょう。女性のバリ舞踊はなよやかで優美な動きが特徴ですが、この「タルナ・ジャヤ」はキレのよさとテンポのよさが見どころ。「ジャジャーン!」という、クビャール特有のきらびやかな演奏に乗って、踊り手が登場します。
この日の踊り手はグンマニさん。長くウブドのスター・ダンサーで、今も現役の踊り手さんです。彼女は実際はかなり身長が低いのですが、舞台に上がるとまったくそんな風には見えず、存在感溢れるステージを繰り広げてくれます。衣装の裾を翻し、キパス(扇)を使っての踊りは、そのテンポのいいガムランの演奏に乗って、見ていて気持ちがいいです。くるくる変わる表情も、激しい眼の動きも、グンマニさんにかかると優美でしなやかで、余裕の風格。まさに完璧な1人舞台でした。
オレッグ・タンブリリンガン
創作舞踊の代表格、といってもいい「オレッグ・タンブリリンガン」。これは風にそよぐ大輪の花と、ミツバチが戯れる様子、ともミツバチの求愛を表したダンス、とも言われています。ハチとハチが戯れるのか、花にミツバチが寄って行っているのか、そこんとこ、はっきりさせたいのですがナビ、勉強不足です。
まず、女性の踊り手が豪華で可憐な衣装に身を包み登場します。オレッグの女性の衣装は頭の冠とブンガ・マス(金の花)というかんざしで飾り立てられた、女王様のような衣装。頭の飾りでかなりかさ高くなるので、身長がとても大きくなり、その長身をふたつに折り曲げるようにし、長い手をいっぱいに広げて、優美な動きを繰り返します。この日の踊り手はチョッ・フェラさん。レゴンも得意とする、20代の実力のある踊り手さんです。大きな目が印象的で、非常に可憐なオレッグを見せてくれます。長い「お引き摺り」を器用に捌いて、ひらりひらりと踊る様はまるで大輪の花が風に乗って優雅にそよいでいるようでもあるしし、女王蜂(!?)が舞っているようでもあります。座って踊る見せ場では大きな眼をさらに見開いて、激しく動かす場面に思わず鳥肌が!前からはライトアップされてさぞ目が痛いだろうなぁ、と要らぬ心配をしてしまいます。
後半、男性ダンサーが登場(これは間違いなくミツバチ、ですよね?)、美しい女性を目にして求愛を繰り返します。この踊りは比較的分かりやすい求愛のダンスです。寄っては離れ、追っては逃げられ。
男性のダンサーは、カデ・カリアナさん。ハヌマンという神猿の踊りを得意とする、上手い踊り手さんです。この日はオレッグ・ラキ(オレッグの男性)の役割ですが、ソロでの踊りもとても素敵な踊り手さんです。やはり、「オレッグ・タンブリリンガン」は見た目も美しく、技術も揃って上手く、というペアで見たいですよね。この「サダ・ブダヤ」の今日の「オレッグ」は、大当たり~!でしたよ!
トペン・トゥア
さて、いよいよ最後は、「トペン・トゥア」という、翁の面を被って踊られる渋い演目です。踊り手さんはパッ・カジェールさんという方。ほとんど「サダ・ブダヤ」創立時からのメンバーだそうで、本当に「トゥア(年老いた)」なんですね!
「トペン」という演目は仮面を被り、重い衣装をつけて踊るので、視界が狭いうえに、動きも限定されて、とても難しい踊りだと思います。ましてこの「トペン・トゥア」は「老人の」特有の動きをテーマにした踊りなので、動きが制約される訳です。おじいちゃん特有のゆっくりした動き、疲れ、ひょうきんさ、などを表していくのですが、あまり動いていないように見えて、かなり体力を使う踊りです!途中で、動きを休めて汗を拭いてみたり、頭が痒くなって、ぼりぼりやってみたり、頭に虱を発見して潰してみたり。そんなユーモラスでおっとりした「トペン・トゥア」で、本日の公演は幕を閉じます。
中身の揃った公演内容でバリ舞踊を初めて見る方、また、バリ舞踊にとても興味のある方、滞在時間があまり無いけど、一度バリ舞踊を見てみたい方、にぴったりだと思います。実力者揃いの、ウブドを代表する「サダ・ブダヤ」で、ぜひバリ舞踊の魅力に開眼してみてくださいね!以上、ウブド王宮からバリ島ナビでした。